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風評被害リスク:定義、脅威、発生源、事例
風評被害リスクとは、人々が組織に対して否定的な印象を持つ可能性があるものを指します。風評被害リスクによる影響はすぐに現れることが多く、深刻かつ長く続くこともあります。
風評被害リスクと組織
風評被害リスクに対する対策は、顧客、従業員、投資家、パートナー、ベンダーなど、あらゆる関係者に組織が否定的な印象を持たれないようにする目的で実施されます。
ほとんどの場合、風評被害リスクが実際のインシデントになるような事象は突然発生します。戦略リスクは、具体的で測定可能、かつ予測可能であるため、その大部分は制御可能ですが、風評被害リスクは大部分が制御不能で予測不可能なため、管理が困難です。
組織の評判を脅かす可能性のある事象の種類は多岐にわたり、特定の事象による影響は、組織によって大きく異なる結果となる場合があります。
組織は、風評被害リスクに影響を与えるインシデントによって被害を被ることは把握していますが、そのインシデントが実際に発生するまでは、その被害の深刻度は把握できていないかもしれません。
インシデント後の風評被害リスクへの影響は、組織の収益性に一定期間影響するものから、組織の閉鎖、指導的地位にいる人物の辞任、幹部が民事または刑事責任で裁判にかけられるなど、多岐にわたります。
風評被害リスクの種類は無数にあります。組織行為による直接的な結果、従業員個人または複数の従業員に関連する間接的な行為、周辺関係を通じて間接的に生じる場合もあります。風評被害リスクにつながると思われる例をいくつか説明します。
- 問題のある従業員による行為(悪質なミス、不正行為、顧客を不当に扱いながら記録を取るなど)
- 機密情報(個人を特定できる情報(PII)、保護対象保険情報(PHI))を含むデータ侵害、またはその他マルウェア攻撃(特にランサムウェア攻撃)
- 組織のあらゆる側面に重大な影響を与える軽微な混乱から破壊的な障害まで、さまざまな影響を与える可能性がある自然災害または人為的災害
- 民事または刑事の調査や裁判(法規制遵守違反やインサイダー取引など)に巻き込まれた上級役員、誤った投資、不適切な行為への関与、物議を醸すような声明やメッセージ
- 組織運営や顧客の要求に答えるために必要な商品やサービスの遅延につながるサプライ チェーンの障害
- 想定外の大きな影響や長期にわたる中断を引き起こす技術的またはオペレーション上の障害
風評被害リスクの発生源
以下で紹介する例では、組織が対応に備えておく必要のある風評被害リスクの種類とその多様性を説明します。
データ侵害
ほとんどの組織は、多くの情報源、主に顧客や従業員から得た機密データを保有しています。情報漏洩が発生して機密情報が侵害された場合、規制では開示を義務付ける可能性が最も高いと思います。サイバー セキュリティ システムの導入状況や漏洩に対する組織の過失有無に関係なく、風評被害リスクは存在します。
否定的な報道
否定的な記事は、特に、オンライン チャネルを通じて急速に拡散される場合、重大な風評被害リスクを引き起こす可能性があります。初回公開時だけでなく、その後も再び取り上げられ、否定的な報道が行われる可能性があります。
否定的な記事は、企業に関連した評判を落とすような行為や出来事の結果として生じる可能性があります。
- 不採算の支店や製造施設の閉鎖
- 顧客からの苦情や規則違反
- 従業員による労働争議
- 訴訟
- 一時解雇
- 規則違反および罰則
- スキャンダル
- 支持されない合併、買収
CEOや社長、その他会社の指導者や従業員による行為
最高経営責任者(CEO)、社長、その他会社の指導者は、会社の顔になることが多いです。そのため、彼らの評判は最も重要になります。
人の上に立つ指導者の評判が落ちると、収益、投資額、株主価値、従業員の定着率、顧客の獲得と維持に影響が及ぶ可能性があります。CEO、社長、その他の指導者が組織を去ったとしても、彼らの実績が風評被害の原因となり続ける場合があります。デジタル メディアや人々の記憶にその話が残っている場合、両者を切り離すことは難しいことが多いからです。
例として、以下のようなものがあります。
- 民事または刑事責任
- 不道徳な行為への関与
- 自然災害または人為的災害が発生した時点の対応が不適切
- 物議を醸すような声明を書面、オンライン、または口頭で発信
- 人々から注目されている規制要件(水質浄化法や公民権法など)へのコンプライアンス違反
- 組織の使命や理念に沿わない信念や人物をサポートする
- 従業員やサード パーティ(顧客、パートナー、ベンダーなど)を不当に扱う
人事の観点から見ると、風評被害リスクは組織の指導者だけではありません。従業員も風評被害リスクを引き起こす可能性があります。従業員が風評被害リスクを引き起こす可能性のある状況には、以下のようなものがあります。
- 企業や銀行に警察を呼び、人種的な偏見に基づいて人物を対応させる
- 会社に影響を与える違法行為(組織を悪用した詐欺行為や、機密情報を漏洩するデータ侵害のほう助など)
- 他の従業員または組織周辺関係者(ベンダーやパートナーなど)との性的不品行への関与
- 民族性や指向を理由に、サービスの提供を拒否する
- 暴力行為をほのめかす、さらに悪質の場合は、実際に暴力行為を行う
商品、サービスの品質
品質が劣る商品やサービス、そして高い価格設定は、組織の評判に影響を与える可能性があります。商品の製造品質が平均レベルに達しない場合、リコールが必要な製品不良が発生する場合、あるいはオンライン サービスの機能が充実していない場合、特に支払っている価格がこうした問題から守ってくれるはずだと思っている場合、顧客とユーザーが反応する可能性があります。
こうした風評被害リスクの発生源は組織に忍び寄ってくることがあります。
品質の低さに対する顧客の不満や怒りは、時間とともに高まって収拾がつかなくなり、低評価や否定的な報道、ソーシャル メディアへの辛辣な投稿などのインシデントを引き起こす可能性があります。
こうした状況は、現在の顧客と見込み客の両方を失うことにつながり、組織全体の価値を損なうことにもなります。
ソーシャル メディア
ソーシャル メディアは、インシデントへの対応には大いに役立ちますが、一方で、否定的なメッセージの発信や拡散にも利用できます。残念なことに、組織の指導者や従業員がソーシャル チャネル上で軽率な発言や悪意のある発言をした場合、ソーシャル メディアによる風評被害リスクが社内で発生する可能性があります。
危険で容認できない職場環境
法律では、業種や地域に基づいて安全な労働条件に関する最低基準を定めています。これらの要求事項を満たすことは必須となっています。これらの要求事項を満たしていない組織は、罰金や閉鎖、それに伴う風評被害リスクに直面します。また、最低基準を満たしている場合でも、職場における待遇が容認できないと労働者に判断された場合、組織は風評被害リスクから守られているということにはなりません。
風評被害リスクの例
残寝なことに、多くの組織が風評被害リスクによる影響を経験しています。以下では、風評被害リスクの規模と影響を示す実例を紹介します。
自動車メーカー – コンプライアンス違反と隠蔽
環境保護庁(EPA)がある自動車メーカーに対して、大気浄化法違反の通知を出しました。この自動車メーカーがインストールしていた排出ソフトウェアは、テスト中には完全に適合していたものの、通常の運転モードでは不適合(排出ガスに関してEPAが定めている規制値の40倍まで許容)だったという話は、コンプライアンス違反による風評被害リスクの影響力を示しています。
このインシデントによって、以下の事態が発生しました。
- この自動車メーカーには、国際的なリコール プログラムの資金として100億ドルを確保することが求められました。
- この自動車メーカーは、「Green Car of the Year」の称号と環境に優しいブランドとしての立場を失いました。
- 同社は15年間で初めて四半期損失を計上しました。
- 米国司法省は、刑事および民事訴訟の示談金として罰金を命じました。
食品、飲料会社 – 広告活動での過失
業界に関係なく、広告は物議を醸し、風評被害リスクにつながる可能性があります。以下は、世論の大部分からかけ離れたアプローチで広告キャンペーンを実施した食品、飲料会社の結果です。
この会社は、500万ドル以上を広告に投資した後、同社のブランド資産はその広告の削除を強いられました。しかし、以下のような重大な風評被害が発生したのです。
- この広告は社会問題を軽く扱っていると思われ、掲載後すぐに消費者の怒りを買いました。
- このブランドは10年で最も低い認知度が9か月続き、世論分析においては、55%以上が否定的なブランド メンションであったと示されています。
- X(旧Twitter)上における同ブランドに対する好感度は、広告放送前はトータルで2%プラスだったのに対し、-12%低下しました。
食品サービス会社 – 顧客対応インシデントでの誤算
この組織のある製品が原因で事故が発生した後、被害者はこの会社に対して、事故に関連する医療費と逸失賃金の補償を求めました。同社はこれを拒否したことから、裁判へと発展したのでした。
風評被害リスクを伴っていたこの裁判は、判決内容によって国際的な注目を集めました。陪審員団は、このインシデントに対する同社の対応を理由に、原告に20万ドルの補償的損害賠償と、270万ドルの懲罰的損害賠償金を命じました。
ガス、石油会社 – 環境脆弱性
これらの組織の多くは、活動家とその支持者が社会や環境への影響を強調する痛烈な非難の標的となっています。
- 気候変動による影響
- 抽出作業
- 温室効果ガス排出
- パイプライン開発
スーパー チェーン – サプライ チェーン問題
大手スーパー チェーンは、サード パーティから入手した牛肉バーガーに馬肉が混入していたことが発覚し、風評被害リスクの矢面に立たされました。消費者の反発は大きく、以下のような事態を招きました。
- X(旧Twitter)上に投稿される1日のコメントのうち、このスキャンダルに関するものが61%を占め、その前の週ではわずか5%ほどでした。
- 牛肉バーガーの売上が43%減少しました。
- この会社の市場価値が350万ドル以上下落しました。
- この公開会社の株価が1%下落しました。
国際銀行 – 幹部による法規制遵守違反
ある国際銀行の最高経営責任者(CEO)が、英国(UK)の金融行動監視機構(FCA)の上級管理者体制、認定者体制、および行動基準の遵守を怠りました。その結果、FCAと健全性規制機構(PRA)は以下のように対応しました。
- FCAへの年次報告を要求。
- CEOに2万ドル以上の罰金を科す。
- CEOに対し、金融サービス業界で上級管理職または重要な影響力を持つ職務に就くことを禁じる。
パーソナル バンキング – 不正行為
ある銀行の従業員が、営業成績を上げたいと考えていた上司の命令を受けて、何百万という未認証の小売口座を開設しました。その結果、以下のような事態を招きました。
- CEOをはじめ、他の幹部たちも解雇または辞職を余儀なくされました。
- 規制当局から、重い罰金と罰則を課されました。
- 上得意客の多くがこの銀行との関係を打ち切る、縮小する、保留にするという対応をとりました。
- この銀行の評判は国際的にも悪化しました。
小売業者 – 幹部による重大なミス
上場大手小売チェーンのCEOが、不可解なことに、業界のインフルエンサー、株主、メディアに向けたスピーチの中で、自社製品の品質について中傷的なコメントをしたのです。その結果はすぐに現れ、破壊的なものになったのです。
- 数百店もの小売店が閉店しました。
- このCEOは解雇されました。
- この会社は社名を変更し、新たなブランドで再建する羽目になりました。
- このスピーチから6か月の間に同社の市場価値は80%以上下落しました。
- この会社の株式は50万ドル以上急落しました(現在の金銭価値では2倍以上)。
- 数千人ものスタッフが解雇されました。
風評被害リスクの管理
風評被害リスクは多岐にわたり予測不能なため、管理するのが難しいです。しかし、風評被害リスクによるインシデントの発生に備え、発生した場合には効果的に対応できるようにする目的で、以下のような戦術がよく使われています。
- 既知の風評被害リスクへの積極的な対応と準備、および未知のリスクへの対応に必要な戦略を策定します。
- 急な依頼でも社内外に対応できる強力な広報およびコミュニケーション リソースを組織に確保します。
- 潜在的な風評被害リスクとそれに関連するステークホルダーを洗い出し、評価を行います。
- トップダウンで組織全体に倫理と価値感のプログラムを実施して、徹底を図ります。
- ブランドを継続的に監視しながら、国民感情を常に把握し、以下のようなツールやサービスを使って問題を迅速に特定する。
- 顧客感情の追跡と分析
- データベースの確認
- 評判管理
- 対応管理計画
- ソーシャル メディアの監視
風評被害リスクによる潜在的な損害を軽減させるのは「準備」
風評被害リスクによるインシデントの原因が人為的またはテクノロジーに関係なく、インシデント発生後に迅速かつ明確な対応を行うことが極めて重要になります。こうすることで、組織はインシデントの流れを変え、その状況をより管理しやすくなります。多くの理由の中で、こうした対応が重要になるのは、組織にインシデントが発生すると、そのインシデントは、オンライン上のメディア プラットフォーム(検索エンジンやソーシャル メディアなど)にあっという間に広がっていく可能性があるからです。多くの場合、人々が組織について調べる際、最初に目にする内容が風評被害リスクに関する情報になることがあります。
危機管理計画は、組織が風評被害リスクに積極的に対応する際に役立ちます。組織はオペレーションを早期に復旧させる上で必要なコンティンジェンシー プラン(緊急時対応計画)を準備し、対応を早めるための各種通達を作成する必要があります。風評被害リスクのシナリオについては、すべてレビューとリハーサルを実施し、組織がその状況に反応し、ある程度の管理が維持できる状態にあることを確認しなければなりません。